江部康二先生対談
糖質制限を日本に広めたカリスマ医師の江部先生と、当院の医師であり日本抗加齢医学会専門医の森医師が対談をさせていただきました。
江部先生は京都で診療をされているので、森医師が京都までうかがいました。
◎江部先生の健康法
森: はじめまして!
実は先生の本を拝読してから糖質制限をはじめまして、10kg以上体重が落ち…
なぜ立っていらっしゃるんですか?!
江部先生(以下江):よろしくお願いします。
健康のためには、座った姿勢は良くないんです。
立っている時の腰の負担が100とすると、座ると140くらい、座って前傾姿勢になると160くらいの負担になるといわれています。
ここ2年半くらい、立って診療をしているんです。
ぎっくり腰がなくなりましたね。
森:そうなんですか?!(思わず、立ち上がる)
江部先生は糖質制限の第一人者というイメージですが、そのほかにも健康に気を遣われているんですね。
お若いし、シャキッとされていますよね。
江:そうですね。
あまり老化を感じずに健康体でいることができていると思います。
今73才ですが、歯は一本も抜けていないし虫歯も無いですね。
目も悪くないですよ、裸眼で広辞苑が読めるくらい。耳も遠くない。
森:素晴らしいです!
糖質制限や「長時間座らないでいること」以外に、健康のためにされていることって何かありますか。
運動などは…
江:ジムに行く時間は無いので、運動といったら週一でテニスをしているくらいです。
あとは、日頃から歩くようにしていますね。
早歩きで、8千歩は歩くようにしています。
患者さんには、「インターバル速歩」を勧めていますね。
3分の早歩きを5セット/日、テレビを観ながらでもいいですよ。
インターバル速歩などの有酸素運動を日頃の生活に取り入れると、生活習慣病、筋力低下や骨密度低下を防ぐことができます。
森:それなら時間がない人でも手軽に出来ますね!
江:他には、栄養としては亜鉛は大切ですね。
50代以上の糖尿病患者さんでは亜鉛の吸収率が落ちるのか、亜鉛が不足しがちです。
亜鉛は成長を助けたりインスリンを作るのに必要で、皮膚や代謝、免疫を整えるのに役に立ちます。
サプリや処方薬でも補えますが、まずは牡蠣を食べるといいですね。燻製や缶ですと手軽にとれます。
森:牡蠣ですね、食べるようにします!
食事指導の要はやはり糖質制限でしょうか。
◎糖質制限
江:そうですね。
実は52歳の頃に糖尿病が発覚したんです。
森:その頃は糖質制限はされていなかったんですか?
江:それまでは玄米魚菜食を心掛けていました。
34才から断食を10回以上と、玄米魚菜食を続けていました。
森:とても健康的な食生活のようですが、それでは不十分だったということですね。
江:そうですね。
糖尿病が発覚してからは糖質制限をするようになりました。
今では、糖尿病になってよかった、糖質制限を出来てラッキーだったと思えます。
玄米魚菜食では、糖尿病も癌も防げないですからね。
穀物が全ての元凶であり、生活習慣病のほぼ全てが糖質制限で予防・改善できるんです。
森:そうなんですか!
江:血糖によって作られるAGEsが老化のもとになるんです。
森:AGEs…「最終糖化産物」ですね。
江:糖質と、身体の中の蛋白質が結びつくことで、体内に生成される老化物質ですね。
森:その説明は目にしたことがありますが、AGEsと言われても怖さがピンとこないんです。
江:皮膚のコラーゲンにたまるとシワができます。
コラーゲンは蛋白質ですから。
森:こわいです!!ようやくピンときました。
江:胸椎にたまると背が縮む、目だと白内障、脳だと認知症を引き起こします。
さらに、糖質は虫歯菌のエサにもなる。
森:言われてみれば!
本当に身体中の全てが…!
江:「糖化」の延長線上に「老化」がある!!
森:…!
このお話を聞けて、京都に来た甲斐がありました。
江:糖質制限をするとインスリンが必要最小限で済みますね。
インスリンは、過剰になると肥満、癌、アルツハイマーのもとです。
インスリンの分泌を抑えることで、健康長寿を目指せるんです。
森:なるほど…!
糖質制限は、ずっと続けないと意味がないでしょうか??
江:意味がないことはないけれど、続けた方がいいですね。
長く続けるためには、あまり厳しく考えずにざっくりと
主食…米、小麦、穀物は無しにして、肉や魚ファーストにする。
「野菜ファースト」よりも「肉ファースト」。
特に、60才過ぎたら動物性の蛋白質を!
森:甘いものが食べたくなったらどうしたらいいでしょう。
江:甘味料は、糖質ゼロ、カロリーゼロという表記のものなら大丈夫ですよ。
ラカントは一番おすすめですね。
「糖類ゼロ」表記は、避けた方がいいかもしれません。
森:ラカントが大丈夫なら安心しました!
でも、よく「日本人は昔からお米を食べてるんだからお米を食べないと」という意見も聞きますが、どうなんでしょうか?
江:日本人の祖先は、3万8千年前に日本に移り住んだと言われていますね。
お米、つまり稲作はたかだか2500年前からで、まだ歴史が浅い。
2万2千年間は旧石器時代で、寒かったし針葉樹ばかりだったので、肉ばかり食べていたと言われています。
漁業も発達していなかったので、肉に特化して適応したというんですね。
森:そういった背景があって
私たちは糖質に順応しきれていないから生活習慣病になるんですね!
患者さんにはどういった指導をされるんでしょうか。
他の糖尿病の医師は糖質を摂るように指導しますよね…?
江:糖尿病に関しては、
糖尿病専門医は基本的には糖質を摂るように指導するでしょうね。
なぜなら日本糖尿病学会では糖質制限を否定しているので。
ただし学会の中での指導的立場の医師(注:ぼかしています)自身は糖質制限をして20キロ痩せたそうですよ。
他にも糖尿病の第一人者の医師も、やはり自身はゆるい糖質制限をしていると聞いています。
森:わかる気がします。
私の医師の知人も結構糖質制限していますし…
それでもガイドラインに書いていないことを患者さんには勧められないんですよね、医師としては。
糖質をあえて摂らせて薬で血糖値を下げる、という不自然なことをするしかないという…。
江:米国糖尿病学会は糖質制限を認めたので、日本もそのうち追い付くかもしれませんね。
森:実は当院ゆうメンタルクリニックでは、
より患者さんの全体を診られるように生活習慣病に力を入れた内科の診療も行いたいと考えております!
江:素晴らしいですね!
糖尿病などの生活習慣病は患者さんの人生を大きく変えてしまうのでね。
柔軟な考え方でしっかり患者さんを指導出来る医療機関が増えるのは良いことです。
森:ありがとうございます!
しっかり学びたいと思います。
江部先生の病院では実際に患者さんをどのように指導されているんでしょうか。
江:糖尿病患者さんは、初診では必ず管理栄養士さんから栄養指導しますね。
コントロールが悪い人には2-3回することもあります。
もちろん、指導内容は糖質制限食です。
森:先生の患者さんは皆さん糖尿病なんでしょうか。
糖質制限の指導が中心なんですか?
江:糖尿病の方は多いですが、他にもアトピー性皮膚炎の方も多いですね。
アトピー性皮膚炎については、糖質制限より前から書籍を出していたので。
森:幅広いですね!
アトピー性皮膚炎の方にはどのような指導をされるんでしょうか。
江:乾燥を予防するなどのスキンケアはもちろん、心理的な問題を抱えていることもあるのでメンタル面のケアも大切です。
また、紫外線対策も重要なので、日焼け止めの説明もしますね。
ノンケミカルで、紫外線吸収剤ではなく紫外線反射剤のものを選ぶように、など。
森:きめ細やかですね!
江:1型糖尿病の方なんかは、
自己免疫性疾患による糖尿病なので、他にも喘息やアトピー性皮膚炎の合併もあることが多いんですね。
「糖尿病」「アトピー性皮膚炎」とバラバラの疾患を診るわけではなくて、
ひとりの人をトータルで診ていく必要があるわけです。
糖尿病の患者さんは目や心臓、腎臓などに合併症が出てくることも大変多いですしね。
森:先生に診てほしくて遠方から来る患者さんもいらっしゃいますよね。
江:そうですね。
漢方薬を専門にしているので、遠方からわざわざ漢方を求めてくる方もいらっしゃいますね。
生薬を使うことが多く、通常の薬局に置いているエキスの漢方薬よりも薬効がしっかりと感じられるようです。
森:効果が違ってくるものなんですね。
漢方は奥深いですね…。
◎江部先生とお酒
森:そういえば、「生活習慣病といえばタバコとお酒」というイメージでしたが、そういった指導もされるんでしょうか。
江:タバコはダメですね。
アルコールは好きで毎日飲んでいます。
森:江部先生、お酒飲まれるんですね?!
江:タバコを吸わずにアルコールだけであれば食道癌などのリスクは上がらないというデータもあるんですよ。
もちろんアルコール性の貧血などのようにアルコール性の疾患になってしまうケースは別として、
アルコールそのものではそこまで問題とは考えていません。
森:私は体質でアルコールが飲めないのでわからないのですが…
アルコールお好きな方にとっては、
江部先生がアルコールを摂られているというのは心強いかもしれませんね!
江部先生、お忙しい中貴重なお話ありがとうございました!
内科医/漢方医/(財)高雄病院理事長/一般社団法人 日本糖質制限医療推進協会理事長
2002年に自ら糖尿病であると気づいて以来、さらに糖尿病治療の研究に力を注ぎ、 「糖質制限食」の体系を確立。これにより自身の糖尿病を克服。
(予約が埋まっていても診察可能ですのでお気軽にお越しください。)
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